今回は昨日のエントリーで紹介したファーストジャケットの広告の年代の推定を行いたいと思います。(左の広告の写真は、こちらのサイト(phil-are-go)から使わせて頂いております。)
年代の推定を行う上での基本的な手順としては、記載内容やロゴマーク、イラスト等から年代に関連するものを抽出、着目し、年代を推定しながら絞り込んで行きます。
今回の場合、イラストで着ているジャケットがダブルプリーツのため、ジャケットはファーストである事が一見して分かります。このことから、年代としてはラングラーブランドの製品が発売開始された1947年から1950年代中と大まかには一見してもすぐに推測できます。
年代の推定で着目した箇所
ブルーベルとラングラーの両方がプリントされています。60年代の後半にブルーベルのロゴ表記は廃止となります。今回のジャケットはそれよりもかなり前の年代なので、ブルーベルのロゴもあります。
ラングラーのロゴマークに®が付けられていません。タグ等で®付きが登場するのは1961年のこととされています。このことからも1961年以前である事の材料となります。
尚、商標登録(レジスタード・トレードマーク)のロゴマークである®が付けられ始めたのが商標登録が認可された年との解釈をする場合がありますが、実際のところはそうであるとは限りません。これについては別途後ほど、ご参考までに紹介します。
ここまでの時点では、イラストがファーストであることから推測した1948年以降から50年代までの間であることをサポートしている材料だけです。
ラングラーのセカンド、11MJZが登場したのが1956年です。11MJZはジッパーを採用、さらにポケット数は3つで外観、仕様上もかなり大きく異なるデザインです。しかし、ラングラーのジャケットの場合は、1956年からセカンドに切り替った訳ではありません。ファーストとセカンドをボタン付きとジッパー付きの両方のバージョンのジャケットを揃えて提供していました。
ボタン仕様のファースト111MJがモデルチェンジしたのは、1960年代の前半とされています。主な外観上の仕様変更点は、フロントプリーツの廃止、それに伴い丸カンもなくなります。そしてポケットは、11MJZ同様3ポケットになります。
ここまではさらに絞り込めてはいません。少し細かく、記載内容を見てみましょう。
“How to pick better Western jeans” (ウエスタン・ジーンズの選び方)のタイトルがあり、その下、イラストの左側に順番に説明があります。
“1. Get Wranglers, the Western jeans that Jim Shoulders wears. He’s world champion all-around cowboy*.”
『ラングラーを手に入れて下さい。ラングラージーンズは(ロデオ)カウボーイのワールドチャンピオンのジム・ショルダーズが着ています。』
そして、”world champion all-around cowboy*”の脚注として、”*Rodeo Cowboys Association rating, 1949″とあります。この1949年と書いてあるので、この広告が1949年とは限りません。しかし、この年の記載により、広告が1949年以降であることは分かります。(それ以前である事はあり得ません。)
Jim Shouldersについて調べてみました。ジム・ショルダーズはPRCA(Professional Rodeo Cowboy Association)の’World all-around rode champion cowboy’の賞を1949, 1956, 1957, 1958,1959年の計5回受賞しています。協会名と賞の名前、受賞年を考えるとこの広告で謳っているものであると判断できます。
ここで注目はジム・ショルダーズがチャンピオンになったのは1949年の次は1956年です。1956年以降に作られたのであれば、1956年以降の受賞について記載されるはずです。このことから、この広告が作られたのは1956年よりも前であると推定できます。
この広告の推定年としては、1949年から1955年頃までの間に絞り込む事ができました。
2番から4番以降は年代の推定にはあまり関連が薄いです。記載内容自体は興味深いところもあります。それについては、年代の推定の後に書きます。
製品の価格情報の記載をみると、メンズのジーンズは11オンスデニムとあります。英語版のWikipediaのWranglerの説明の中で、1952年に生地が11オンスから13オンスに変更になった。それに伴いロット番号は11MWZから13MWZに変更になったと記載されています。実際のところロット番号11MWZは80年代の前半頃まで存在するので、この時に13MWZに変更になったのかは定かではありません。もちろん、当時品番変更が行われ、また後で11MWZが再登場した可能性もあります。Wikipediaに書かれている事が全て正しく、事実であるとは限らないので、分析する上ではそれを支持するデータが他で見つかるのが望ましいです。
この広告では11オンスと書かれているため、13オンスへの変更前である事がわかります。Wikipediaの説明が正しいのであれば、生地の13オンスへの変更は1952年であるため、本広告は1949年から1952年頃の間に作成されたと推測できます。また、生地がさらに厚い生地に変更になる直前に、広告で変更前のスペックを記載する事はあまり考えられません。そのことから変更が1952年に行われたと仮定した場合、本広告の作成時期としては1952年ではなく、それよりも前、例えば1951年頃以前である可能性が高いと考えられます。
分析結果を総合すると、この広告の作成時期の推定年代は1949年から1952年頃、可能性が高いのは1949年後半から1951年の間頃となります。
年代の推定は以上です。それ以外にも色々と興味深い箇所が色々とあります。以下に気づいた点、興味深い点を箇条書きにします。
- 広告タイトル、説明等からラングラーは当初から、『ジーンズ』、『ウエスタン・ジーンズ』と言う呼び名を使用していた。
- ラングラーが当初から対象顧客をカウボーイに絞った製品戦略を取っていた。
- 当時、ラングラーはブルーベルのラインの中のジーンズ製品につけられたサブブランドだった。
リーバイスは当初よりジーンズの事をウエスト・オーバーオールと呼んでいました。リーバイスがジーンズの名をレーベル等に記載し始めたのは、1960年頃からです。つまりラングラーのジーンズの呼び名の元祖で、その名称が一般にも普及し、リーバイスも使う様になり現在に至っていることになります。
ラングラーは現在もカウボーイに特化した製品戦略を取っています。つまり、60年を超えるブランドの歴史の中で首尾一貫した製品戦略を持っている事になります。これはとても印象的な事だと思います。社会や市場環境はブランド黎明期に比べて大きく変化しています。母体の企業が合併したり、生産拠点が米国から海外へ移行はしまししたが、製品のコンセプト、仕様は長年、ほとんどと言うか全く変わっていません。これは驚異的なことだと思います。
さらにもう一つ興味深い発見があります。Wrangler pantsの商品価格の説明のところに、”With zipper fly about 10c higher”とあります。価格表示はボタンフライで、10セント高いものがジッパーフライであることを意味します。つまり、この広告を読む限り、この時点でのジーンズパンツはボタンフライとジッパーフライの2種類が存在した事になります。最初期、プロト11MW等ではボタンフライのものがあります。
サイレントWを施したボタンフライの11MWを私は見た事がありません。恐らく存在したのでしょうが、生産数はかなり限られていたと思います。この広告の製品価格の記載のベースがボタンフライである事から、恐らく、この広告の年代はより初期に近いと考えます。つまり、1949年後半頃から1950年頃だったのではないでしょうか?ここまでくると確度が多少落ちてきてしまいます。
この様に広告や製品のディテールや年代の分析をすると新たに興味深い事が見つかったり、分かったりすることがあります。この様な事もヴィンテージの楽しさの一つです。
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