追記
本記事の877のイラストについてとかぶせモカの可能性に関して、レッドウィングジャパンさんがお調べくださり、コメントを下さいました。
頂いたコメントを記事の終わりに追記しております。
1967年のアイリッシュセッターの広告です。”Champions…in the field” (フィールドのチャンピオン)のタイトル。下に877のイラストが描かれています。
877の下にIrish Setterのロゴが入り、説明があります。その下にレディースのアイリッシュセッター 823のイラストです。
この広告でいくつか興味深い点がありました。着目点とそれについての考察を以下に紹介します。
最も注目したことは、877に四角ステッチが入っていないことです。このことについては、後ほど詳しく取り上げます。
もう一つは、ソールの説明で、”Vibram lug soles or Traction-Tred cushion crepe soles”と、ビブラムソールが先でその後にトラクショントレッドのクレープソールとなっていることです。
採用ソールについて
アイリッシュセッターのソールと言えば、トラクショントレッドのクレープウェッジソールの印象が強いです。
しかし、この広告ではビブラムソールの名前が先に登場しています。
単に順番ですが、その理由を考えていました。
60年代に登場した新しいアイリッシュセッターは、ビブラムソールを備えているものが多い(または、全てビブラムソール)です。
一方で、レッドウィング全体のラインナップとしては、1950年代の終わり頃から、トラクショントレッドソールを使用したワークシューズ・ブーツが多数登場しています。
この広告が掲載されていたのは、ハンティングやフィッシングを中心としたアウトドア系の雑誌です。
60年代(から70年代)は、アイリッシュセッターの元々のターゲットであるハンティング・スポーツブーツのソールは、ビブラムソールが主流になってきた可能性があります。
ハンティングと一言で言っても、色々な種類があり、行われる環境も異なります。
タフなアウトドア用途ではビブラムが定評があったと思います。
トラクショントレッドのソールは、幅広いワーク用途で人気を得て、使用用途が広がっていったと考えます。
877に四角ステッチが入っていない
この広告で最も注目した点は、877のイラストに四角ステッチが入っていないことです。
四角or長方形ステッチ(レクタングルバータック)は、アイリッシュセッターが誕生した1950年から1980年代半ば(85年)までの877や875などの主要なアイリッシュセッターのモデルに見られる特徴的ディテールです。
備考
四角ステッチは、羽先の四角形状のカン止めステッチのことです。英語ではレクタングル・バータックと呼ばれています。レクタングルは長方形です。
日本でスクエアステッチと呼ぶ場合がありますが、スクエアは正方形のことです。4辺が同じでなければスクエアではありません。
長方形ステッチの方が原意に近いと思うのですが、Red Wing Life/ロングホーンインポートでは、四角ステッチと呼んでいます。
1950年に誕生した最初のアイリッシュセッター854のイラストにも四角ステッチは入っています。
この広告の877には、四角ステッチが描かれていません。
単に描き忘れた・省いた可能性もありますが、当時のイラストで四角ステッチが省かれて描かれていたものを見たことはありません。
備考・注意点
「四角ステッチが入っていない」と書きましたが、一番下のアイレットに向けて縦に一本線(ステッチ)が入っています。長方形の上辺が描かれていないとも解釈できます。
また、同じ広告上のレディースアイリッシュセッター823には、四角ステッチが入っています。
なぜ877に四角ステッチが入っていないのか?
2015年7月にレッドウィングジャパンのFacebookに極めてレアなビンテージ製品として、推定年代1964年製の875が紹介されています。
この875は、モカ縫いが通常のアイリッシュセッターのおがみモカではなく、「かぶせモカ」になっています。このモカ縫いの違いにより、この当時あった羽先のカン止めステッチ(四角ステッチ、レクタングルバータック)がありません。と説明されています。
Posted by Red Wing Japan on Saturday, July 11, 2015
ロングセラーブーツ、「875」の60年余りの歴史の中で、この様な仕様で製造されたのは1963年~65年の3年間だけです。
875の仕様が四角ステッチ無しのかぶせモカであれば、877も同様の仕様であった可能性はあります。(可能性は高いのではと考えています。)
60年代以前のカタログに描かれるイラストのモデルは、そのカタログの年より数年古いモデルであることも珍しくありません。
広告は1967年のものですが、描かれている877は1965年頃の四角ステッチ無しのかぶせモカの可能性が考えられます。
また、この広告のイラストから、877も875と同様に60年代の限られた期間に四角ステッチ無しのかぶせモカの仕様であった可能性を示していると思います。
関連記事:「おがみモカ」と「かぶせモカ」
追記
本記事の877のイラストについてとかぶせモカの可能性に関して、レッドウィングジャパンさんがお調べくださり、コメントを頂きました。
1963年から74年までの12年間のカタログを調べて見ました。
まず、877がかぶせモカでつくられた形跡はまったくありません。
さらに65年のカタログまでは古いモノクロイラスト(バータックステッチ描き込みなし)、66、67年は写真(バータックは写っている)、68年以降(74年まで)はカラーのイラスト(バータック描き込みあり)です。
これらを見ると古いイラストでは長方形のバータックステッチを省略して描いていたのだと思えます。
投稿された67年の広告は古いカタログのイラストを使用したもののようです。
ちなみに875は、かぶせモカでない時期も、常にバータックステッチの描き込みはありません。これもただ単に書略されていたのだと思います。
手元にある1959年の販売店向けのカタログや50年代の顧客向けのパンフレットを再度、細かく見てみました。
59年のカタログ内の877, 875, 874, 898のイラストには、バータックステッチが描き込まれていませんでした。面白いことに855, 863, 202にはバータックが描かれています。
これらの製品の商品説明には、すべてGoodyear Pac moccasin toeとおがみモカである記載があります。
下に添付する1950年代の顧客配布用ブローシャー(パンフレット)でも854と855にはバータックが描かれていますが、877はありませんでした。
手持ちの方でも、レッドウィングジャパンさんから頂いたコメントと合致する50年代の後半から877のイラストにおいて、レクタングルバータックが省かれて(または、長方形の上辺が省かれて)描かれていたことが確認できました。
ここで重要なことは、イラストはともかく、60年台前半の限られた時期にかぶせモカは875のみ存在し、877のかぶせモカは存在しなかったということです。
コメントを下さったレッドウィングジャパンさんに、この場を借りて御礼申し上げます。お忙しいところ、貴重な情報を教えて下さいまして、本当にありがとうございました。
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